
いぃ那珂暮らしの人々 vol.26
好きなピアノの道をひた走る。
子どもたちの「好き」も伸ばしながら。
藤田 美歩さん
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2019 年に大子町から移住
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ピアニスト、「藤田美歩ピアノ教室」主宰

静かで、ほどよい自然環境。
新天地は「ここだ」と直感した。
那珂市と水戸市の境には那珂川流域の広大な水田地帯が広がり、そこに沿うように那珂台地が接しています。ここは市南部の中台地区、藤田美歩さん一家がお住まいの地域です。この一帯は各戸が詰め込まれた住宅地ではなく、林や畑が多く広がる中に家々が点在するとても閑静な集落。土の匂いが感じられ、静かでゆったりとした時間が流れるこの地に初めて立った藤田さんとご両親には「ビビッと感じた」ものがあったそうで、この地への移住を即断されました。
藤田さんは茨城県北部にある大子町に生まれ育ち、音楽大学を卒業してからピアニストとして活動を始めました。やがて、音楽活動がよりしやすく、家族みんながもっと暮らしやすい便利な地に移住することを考えるようになります。
「県内をいくつも見てまわりました。常陸太田や常陸大宮、そして那珂。水戸も候補でしたが、ピアノ教室を開くとなると住まいも駐車場もある程度余裕がないといけなくて。その点、ここ那珂市ならわりと手頃で広い土地を確保できます。ここ中台は水戸に近く、都内に行きやすいというのもポイントでした。それに私は自然が豊かな大子町で育ったので、窮屈なところは苦手で。ここなら森も田畑も公園も、緑が多くあるので気に入りました」。そうして弟さんも含め一家4人でこの地に移住。現在、弟さんはご結婚され、なんとお隣に新居を構えて暮らしているそうです。

一人ひとりの“持っている音”を大切にしたい。
卒業後、ピアニストとして歩み始めた藤田さん。活動はさまざまで、各地の演奏会に参加したり、ソロでリサイタルを開いたり。また、所属するいばらき文化振興財団からの依頼でイベントや県内の小中学校での演奏など精力的に活動しています。普段はピアノの腕を毎日磨き続け、平日は5〜6時間、土日は7〜8時間も練習を重ねているそうです。ということは、ほぼ365日ピアノ漬けなんですね。藤田さん、疲れたりしないんでしょうか?
「ピアニストはそれが普通の生活なんですよ(笑)。息抜きに犬の散歩に行くんですが、畑や林の間などお気に入りのコースを通ってのんびりする時間が好きですね。そこでばったり会った近所の人と立ち話とかして。みなさん本当に優しくてあたたかくて、いい人ばかりで癒されます」
そしてピアノの先生でもある藤田さん。平日の午後は自宅の専用ルームで生徒さんにレッスンをしており、下は3歳から、上は60代までの40人ほどの生徒さんを受け持っています。お子さんが多いようですが、藤田先生はどんなポリシーで生徒さんたちと向き合っているのでしょう?
「私は、みんなを自分の色に染めないと決めていて。一人ひとりの個性を大切にするようにしています。みんなそれぞれ顔も性格も話しかたも違うように、それぞれ“持っている音”が違うんですね。その人ならではの個性を伸ばすような指導を心がけています。もちろん厳しくする時もありますよ。でも、生徒さんが教室から帰る時は悲しい顔じゃなく笑顔で帰れるようにフォローするようにしています。また次のレッスンを楽しみにしてくれるように」

ピアノを教える楽しさ。それが力になる。
その魅力的な笑顔とあたたかい励ましの言葉で、生徒のやる気を伸ばしピアノに触れる時間を楽しいものにしてくれる藤田先生。子どもたちからいかに慕われているか、教室前にあるボードを見るとわかります。そこには、生徒さんたちがそれぞれ思い思いに描いたドレス姿の先生の似顔絵、折り紙で作った人形などがたくさん。感謝のお手紙もたくさんいただいているそうで「ぜんぶ宝物で、ずっと大切にとってありますよ。“先生大好き”って書いてくれたりして、もう本当に嬉しいですよね。なんだか私が励まされちゃってる」
藤田美歩ピアノ教室では、毎年生徒さんの発表会を近隣のホールで開催しています。その本番に向けた練習でみんなの士気を高めるために、生徒の親御さんがお揃いのTシャツを作ってくれたり、お楽しみのイベントとして食事会を開いてくれるなど、自主的に教室の活動を盛り上げてくれることもありがたいと藤田さんは語ります。
「ここで教室を開いてから、私はまわりのあたたかい人たちに支えられながら、子どもたちにピアノを教える楽しさを知りました。まだ小さなコたちが楽しそうに弾いていたり、一生懸命練習に取り組んでいるのを見ると、本当に嬉しくなるし、力が湧いてくるような。そうしていい影響を受けて、私自身ピアノに向き合っていける。いい関係なんだなと、あらためて思いました」
