いぃ那珂暮らしの人々 vol.22

仕事に動きやすく、のんびり暮らせる場所。

 

市の南西部に広がる田園地帯。那珂川沿いに水田がどこまでも続き、那珂市と隣の水戸市はこののどかな田園を境にしています。こんなのんびりしたところに中古レコードのオンラインショップの拠点が本当にあるのでしょうか? 半信半疑のまま街道を行くと、アース色の景色が広がる中に白いキュービックの建物が見えてきました。「Paddy Field RECORDS」。その名の通りここは水田の風景に佇むレコードの発信拠点。オーナーの小林勝哉さんにお話を伺いました。

 

ずっと水戸市での暮らしが長かったという小林さん。お父様が立ち上げた会社に入社し経営に参加。会社が那珂市に移転したのを機に、ここへ移り住みました。仕事はオフィス用通信機器などの販売・施工で、茨城県内全域が営業エリア。拠点としていた水戸のオフィスが手狭になり、県内どこでもアクセスしやすい場を求め那珂市を選んだそうです。「最初は住むつもりはなかったんですが、ここで仕事をしているうちに穏やかでのんびりした環境が気に入りました」

 

もともとここはお店だった物件で、建て替えしてオフィスと小林さんご夫婦が暮らす社宅にしたそうです。リノベーションする際、通りに面した立地を活かし、何か別の事業をしたいと思い建物の一画を空けたままにしていましたが、そこはやがて小林さんの趣味のレコード部屋と化していきました。

自分のペースで運営し、

好きな音楽について語らう。

 

小林さんがレコードを集め始めたのは高校時代。「姉がいろいろ音楽を聴いていて影響を受けました。最初はニューミュージックでしたが、洋楽に衝撃を受けて。イギリスのパンクロックに始まりポストパンクにハマって、それから世界のいろんな音楽を聴くようになりました。学校帰りに毎日のようにレコード屋に立ち寄っていろいろ漁り、解説に書かれたアーティストが気になればそのレコードを探したりと、どんどん世界が広がっていきましたね」

 

そうして約30年近く集めてきたレコードをこの空間に置いてから、次第に友人や音楽好きが集まるように。「ここはどうしても私がやりたいと言って始めたのではなくて。みんなと話している流れの中で、どうもうまく乗せられたというか(笑)」。そうして小林さんは2016年に中古レコードのオンライン販売事業をスタート。コレクションを見たいとここを訪れる方々には細やかに対応していました。当初は友人と共同で運営していましたが、その方が参加できなくなり一人で切り盛りすることに。平日は本業の仕事、土日にレコード業務の生活を続けていくうちに身体を壊し、しばらく休業することに。

 

「それで考え方が変わったんです。オンラインショップは続けながらも、この空間でのご案内は無理のない範囲で対応するようにしようと。興味を持った人が訪ねて来てくれても、こちらに余裕がなかったら、ゆっくり音楽談義を愉しむことはできませんから」

 

小林さんはこれまでレコード収集をしている間に世界中のディーラーとつながりができたことで、独自に選定したレコードのコレクションにはレアなものが多いのだとか。その噂が噂を呼び、遠くは四国や北海道から、音楽通がこの田園風景に佇むレコードの拠点を目指してやってくるのだそうです。

穏やかな時間を過ごせるから、

好きな音楽にじっくり向き合えた。

 

ここは水戸の都市部と、那珂の市街地の中間地点。喧騒から離れ、社会の営みやさまざまな情報の潮流にのみ込まれることなくそれらを遠巻きに眺めることで、自分に必要なものが何かに気づいたと小林さんは振り返ります。

 

「これまでもずっと音楽に触れていたわけですが、こうしてのどかな環境の那珂市に移り住み、自分のペースで運営するようになってからは穏やかな時間が生まれて、レコード一枚一枚を大切に聴くようになりました。すると昔はそれほど好きではなかった曲がとてもよく感じたり、気づかなかった“良さ”に出会えたりする。音楽の素晴らしさをあらためて実感できるようになりましたね。私がこの仕事をやる意味って、ここで感じ得たそういう魅力をみなさんに伝えることなんだ、そう思うようになりました」

 

今後はより多くの方に、レコードや音楽の素晴らしさを感じてもらえる機会をつくりたいと小林さんは考えています。「コロナの世の中がどう変わっていくのかによりますが、できればレコードを聴く会とかセミナーなどを開いていけるといいなと。もちろんここを拠点にしているわけですから、那珂市のみなさんと関わりを増やして一緒に何か仕掛けていったり。この空間が音楽を通じて人々が集まるような、そんなランドマークになれたらいいですね」