暮らしのそばに“いぃ那珂キャスト”
Vol.4
人と映画と地域の接点を
つくっていきたい。
- ミニシアター「あまや座」 を運営
大内 靖さん
JR水郡線の瓜連駅から北側の市街地へ歩くこと8分ほど。ぽつぽつと店が点在する商店街を進んでいくと、「スーパーあまや」の白い看板が見えてきます。いや、よく見ると看板の下の方には「座」とあります。そう、ここが茨城県内で唯一のミニシアター「あまや座」です。閉店したスーパーの敷地内に、「あまや座」は2017年10月にオープン。茨城の、それも水戸でもなく、1時間に1、2本のローカル線が通る那珂市の北の長閑な街に、わずか31席のシアターが開館したという噂は映画関係者の間に広まり、これまでに巨匠と呼ばれる監督をはじめ多くの役者が応援しようとここへ足を運んだそうです。映画を愛する人々から温かい言葉をかけられたのは、設立の発起人の一人で支配人を務める大内靖さん。開館の経緯など気になるあれこれを伺いました。
一体、どうしてこの地で映画館を始めたのでしょう? 正直にいえば、あまり人が多くやってくる場所ではないと思うのですが。。。
「そう思いますよね。でも、だからこそなんです。この瓜連の街は栄えているとは言えません。地域の活性化に私の映画好きが活かせるのなら、やってみようと決断しました」
というのも大内さん、以前は都内の映像プロダクションで制作・編集の仕事をされていました。しかし超ハードワークの毎日で身体を壊し、奥さまの実家がある茨城の地に療養のため移住することに。その後、あの東日本大震災が起こりました。これをきっかけに上菅谷を中心とした地域復興を目指す有志団体「カミスガプロジェクト」の立ち上げに関わることになりました。団体ではこれまでの経験を活かしてPV映像などを製作して告知活動をするほか、念願であった映画を製作。水郡線沿線を舞台とした3部作の脚本を自ら書き、メガホンを取りました。そうしているうちに、カミスガプロジェクトの当時の代表から打診があったそうです。映画館をつくらないか?と。
「その代表の方が、スーパーあまやの社長さんと話をしていて、閉店したこの場所を地域のために何か使えないかと。じゃあ、店舗を映画館にしようかと話が盛り上がり、映画のことなら大内だろう、という流れになったようです。私も何か力になれればと思ったので、二つ返事で引き受けました」
映画の文化を振興し、瓜連の街を再興していく。その構想に幸いにも多くの方が賛同。開設資金はクラウドファンディングで集まりました。改装を予定していた元店舗が建築の条例などの関係で使えないことが後に判明しましたが、急遽敷地内に新設することで支援者の想いも込められたシアターはミニながらついに完成しました。
「あまや座」で観られる映画は国内外の有名無名を問わず、大内さんがこれぞと思うものをセレクト。大型のシネコンでは上映されない作品がほとんどで、その時の流行りやエンタメ性を追い求めるのではなく、人間ドラマを描いたものや社会的なテーマ性の強いドキュメンタリー作品、不朽の名作のリバイバルなど、映画好きの心を掴む隠れた名作が多いと言えます。
取材に訪れたこの日はオープンから3周年の時期で、2020年3月に亡くなった佐々部清監督の作品をフィーチャー。代表作『夕凪の街 桜の国』『六月燈の三姉妹』『八重子のハミング』が上映スケジュールに組み込まれていました。
「佐々部監督には毎年周年の時期に舞台挨拶に来ていただきました。それが今回は追悼上映のようなかたちとなってしまい残念です。佐々部監督が映画に込めた想いを一人でも多くの方に知っていただきたい。これからもずっと佐々部監督の作品を上映していきます」
朝から雨が降る中でも、この特集を愉しみにやってきた映画ファンが開館前から入り口に並んでいました。車のナンバーをみると茨城県内だけでなく、東京や埼玉、神奈川から。ここは映画ファンの中では名の知れたシアターのようです。
茨城県で唯一のミニシアター。その噂は広まり、今では来場者が年間1万人ほど。地域の活性化に向けて、こうした人の流れをこの那珂市の瓜連にもっとつくっていきたいと、大内さんは語ります。
「私がみなさんに観ていただきたい映画と、多くの人が足を運んで観に行きたい映画は、必ずしもイコールではないんです。ですが、ひとつでもいい、知らなかった映画の世界に触れていただき、そこに発見があったり、心にちょっとでも残ったり。そうした体験をしていただきたいですね。ここを訪れることで、そうした楽しみが味わえて、その足で知らなかった那珂市のことも知って楽しんでいただく。やってくる人とこっち側の人たちで盛り上がるような、そんな時間もつくれたらいいと思います」
大内さんはこれまでに、作品にまつわる方々を招いてのトークショーを開催したり、元スーパーの敷地内でビアガーデンを開いたり。最近では地域の子どもたちに映画の世界に親しんでもらう映画教室を開催するなど、人と映画の接点、地域とお客さまの接点をつくるイベントも実施しています。
「もっと若い方に来ていただきたいですね。水郡線沿線で、ここの存在を知らない人はまだまだ多いと思います。私が若い頃に映画にハマったように、いろんな映画に親しんでもらえるようなきっかけをこれからはつくっていきたいですね」
「あまや座」はあと10年、いや20年は続けていけるようにしたいと語る大内さん。映画にできること、ミニシアターだからできること、この地だからできることを、日々考える。そんな毎日だそうです。
あまや座