いぃ那珂暮らしの人々 vol.17

知らなかった日本で、提灯職人を目指す。

那珂市南部、中台にある飯島工作所。ここは飯島實(みのる)さんが30年以上にわたって提灯づくりをしている工房です。實さんの代で一人で始めたこの家業を引き継ごうと、2017年から見習いとして歩み始めたのが、ジェフ・ラッジさん。義理の息子さんです。

ジェフさんはイギリス人のお父様とドイツ人のお母様のハーフで、スイス生まれのフランス育ち。その後、世界のさまざまな国で暮らしてきたとか。2002年にワーキングホリデーでニュージーランドを訪れた際、實さんの娘さんと出会い、結ばれることに。2005年から奥さまの故郷、那珂市で暮らし始めました。現在は県内の中学校で英語講師をしながら、實さんから提灯づくりを教わっています。それでジェフさん、提灯職人になろうと思ったのはどうしてでしょう?

「提灯をつくる人が少なくなっていると聞きましたし、もともと自分の手でものを作ることが好きでしたから。ワタシはこれまでいろんな国を巡ってきました。それぞれ知らなかった国の文化に触れて、わからなかったものがわかるようになるのが面白くて。だからここに来て、提灯づくりをするようになったのも、ワタシの中では自然なことで」流暢な日本語で語るジェフさんを微笑ましく見ながら、實さんが続けます。

「嬉しいもんですよ。提灯づくりを継いでくれるっていうのは。二代目が外国人って言うとみなさんびっくりしますよ。まあ、私が一番びっくりしたんですがね」

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水府提灯の流れを汲む、伝統の担い手に。

飯島さん親子は、主に東京の問屋から注文を受け、さまざまなタイプの提灯を手づくりしています。お店の軒にある小さなものから、お寺や神社などで使用するもの、中にはお祭り用の高さ2m近くになる特大サイズもあるそうです。

ジェフさんに提灯づくりを教えてもらいました。「まず竹を割って、節を削り、皮を取ります。幅も厚さも均一になるよう削り整えヒゴにしてから、木型に輪の状態にしてはめ込みます。ヒゴ一本一本に糸をかけて丈夫にして、最後に紙を貼ります」。ヒゴをらせん状にせず輪っかにして糸をかけるこの製法は、實さんがむかし、水戸の「水府提灯」をつくる知り合いのもとで教わったもの。水府とは水戸の異称。水府提灯は江戸時代に発達し、岐阜提灯、八女提灯と並び、日本の提灯の名産として知られています。水府提灯をつくる人も減り、實さんはその流れを汲む数少ない職人の一人。お義父様、いや師匠から教わること3年、ジェフさんは楽しみながらその腕を磨いています。

「面白いのは、竹がその時々でいつも違うこと。自然のものですから曲がっていたり、硬かったり、柔らかかったり。それを毎回手で調整しながらつくるのが楽しいんです」

仕事も、暮らしも、好きに向かって。

昭和40年代から稼働しているこの工房には、いま新しい風が吹き始めています。それは、現代の住宅や商業施設などにマッチする提灯の技を活かした照明づくりや、伝統の提灯にステンドグラスを取り入れるなどした、二人による新たな商品開発の動きです。

「ステンドグラスづくりは、ワタシがドイツのお祖父さんから教わったので、その技が活かせるかと。日本の和紙と竹を組み合わせることで、新たな明かりを灯すことができるんじゃないか。そう思いながら、いまお義父さんと試行錯誤して挑戦しています」。日本のことは何も知らなかったというジェフさんが、こうして日本で提灯づくりをしていることをどう思っているのか、あらためて聞くと「好きな人に出会い、好きなものづくりに出会った。知らないところで、楽しいと感じることやものに巡り会う。これ、人生の不思議ね」とチャーミングに笑うのでした。

つくることが好き。それは仕事だけでなく、暮らしでも。お母さん仕込みでパンづくりが得意なジェフさんは、「これから小麦を畑で育ててみたい」と。小麦づくりから始めて、その焼いたパンを家族で食べる。そして、いずれは自給自足の生活をしてみたいのだそうです。モンブランが見えるフランスの片田舎で育ってきたジェフさんらしい発想。「この自然に囲まれた那珂市なら実現できるでしょう」と、家族みんなでそんな夢を抱いています。

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飯島工作所

茨城県那珂市中台261-2
TEL.029-298-6120