いぃ那珂暮らしの人々 中本 晋さん

いぃ那珂暮らしの人々 vol.13

つくる以前の“対話”を大切に。

つくる以前の“対話”を大切に。

那珂市額田に工房「中本木工研究所」を構え、オーダーメイドの家具や生活小物をつくる中本晋さん。期待を超える仕上がりと使い心地のよさに依頼主の多くがリピーターとなり、口コミでその腕前が評判になっている職人さんです。お客さまからのオーダーに、中本さんはどのように応えているのでしょう。
 「大切にしているのはご依頼いただく方との対話です。家具などはその人の暮らしの一部になるものですから、どんな住まいで、普段どのように生活しているのかをじっくり伺うことから始めます。人は望んでいることを完全に伝えることはできないもの。だから私は対話を重ねる中で感じるインスピレーションも大事にしています。目では見えない、感じたこともデザインや手触り、細部の仕上げに反映するようにしています」
 中本さんは高校生の時に木工のアルバイトがきっかけでこの道を志し、京都の大学校で指物を学んだ後、石川で漆塗の技を学びます。その後いくつかの木工所で経験を重ね、2011年に独立。奥様の実家のあるこの地で歩みを始めたそうです。

正座の文化を伝えていきたい。

正座の文化を伝えていきたい。

オーダー製作以外にも自身の創作意欲の赴くままに作品づくりを進め、2014年に「いばらきデザインセレクション」受賞、2017年には日本の新しいものづくりに挑む匠を応援する「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT」の茨城県代表に選出。そこで日本伝統の文化と暮らしに関わる正座に着目し、正座椅子「RINZA」を生み出しました。正座椅子をつくろうと思ったのはどうしてでしょうか。
  「実は私の実家が仏具屋でして。仏像に対してはその前で正座して拝むのが礼儀であり、その姿勢が正しい目線になると言われてきま した。実際、正座して仏様を見上げると、自分のことをなんでも見られているように感じるものです。仏像が美しくも見えるんですね。日本庭園も室内で正座をすることで美しく見えるようにつくられていますし。茶道も、武道も、みんな日本の伝統文化には正座が欠かせません。時代の流れかその文化が薄れてきていると感じ、正座が苦手な方やお年寄り、海外からの観光客にも無理なく正座のスタイル伝えたいをしてほしいと思い、このプロダクトをつくりました」
 杉や松など一本の木を削り出して、継ぎ目のない美しいフォルム と強度を備える「RINZA」。足を入れて腰を下ろしてもそこに椅子があることがわからないような大きさと形にこだわったとか。全国からこれぞと選んだ木の種類と、中本さんが最高と賞する大子産の漆を用いた塗り方、それぞれの体型に合わせたサイズで、お好みの正座椅子をつくることができるそうです。

未来に何を遺せるか。

未来に何を遺せるか。

そう言えばこの工房の名前は「中本木工研究所」。どんな思いでその名を付けたのでしょう。
 「あれは正倉院展を見た時です。1200年前の人がつくった品を目の当たりにして純粋に凄いなと。時を経ても感じられる精緻な技と美しさに、ただ見とれていました。そんな日本伝統の木工や漆の技と現代の素材などを複合的に組み合わせたら、この時代にそしてこれからの時代に面白いものが遺せるんじゃないかと思って。そういう新しいものを追求していきたいんです」
 中本さんが考えるものづくりは、現代の人に応えるものをつくるだけでなく、そのずっと先を見ています。
 「ものっていうのはイヤでも残っていくんです。手を抜いたものも、魂を込めてつくったものも、物体として残る。100年後の人が私の作品を見た時に何を感じるかです。使う人なら好きだと感じてほしいし、職人ならそこに刺激されてほしい。そのためにどんなものをつくって遺せるか。それを考え抜いてつくっていくことが私の生きがいです」
 「RINZA」は中本さん曰く、一つ目の遺産。現在は第二、第三の遺すべき作品をつくるために、新しい構想が進行中です。さらに、ゆくゆくは茨城の伝統技を担う匠たちとコラボレーションしてプロダクト製作する“ALL IBARAKI”プロジェクトを立ち上げ、やがては日本中の、そして世界のクリエイターと協業することが目標だそうです。
 のどかな田園風景が広がるこの地は「心穏やかに過ごせるところ。作品づくりに没頭できます」と語る中本さん。ここ那珂市から未来へ日本の新たな伝統が歩みを始めています。

中本木工研究所(なかもく) 中本 晋さん

中本木工研究所(なかもく)

茨城県那珂市額田北郷133-2
TEL.029-295-8322
http://nakamotomokkou.com/