アートボード 1

いぃ那珂暮らしの人々 vol.29

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茨城の環境に魅力を感じ、
農業への興味が湧いていった。

武田翔太郎さんは東京生まれの神奈川育ち。社会人となってからは職場と住まいは都内で、奥様と2人のお子さんと暮らしていました。奥様の実家が東海村にあり、帰省で何度も足を運ぶうちに、武田さんは茨城の環境に魅力を感じるようになったそうです。

 

「この辺りはとにかく自然がいっぱいで、子どもを伸び伸び育 てるのにいい環境だなと実感していました。遊び場も公園の駐車 場も広々としているところが多い。帰省するとよく直売所にも行っていて、都会と比べて新鮮な野菜や魅力ある食材が豊富にあることを羨ましく見ていました」

 

食によく目がいくのは武田さんの仕事柄。移住前は食品関係の コンサル企業に勤め、主に大手小売店向けに食のブランド開発を 提案する仕事をしていました。メインは惣菜で全国津々浦々の産 地に足を運び、地場の食材を活かしてどんな惣菜ができるかを考 え、道筋をつけて商品化を実現していく。そんな毎日をおくっていたことで、日本各地の農業の特性や事情、食の流通に精通しており、訪れた地方では農業の現場で情報収集をする癖がついているようで、帰省先の奥様の地元でも農家さんと話をすることがよくあったそうです。

 

「そこでよく耳にしたのは、農業の担い手不足の問題です。地 元の若い人は東京に働きに出ていったらそのままで、U ターンし て農業をする人が少ないそうで。おそらくは仕事として安定しな いのではと不安視しているのだろうと。でも、本当にそうなのか。 やり方によっては、都心に近い茨城の立地をうまく活かして、よりよくできるのでは? とだんだん農業に興味を持つようになっ ていきました」

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直売所から新たな流れをつくりたい。

夫妻は3人目のお子さんを考えていたこともあり、これからの子育て生活も見据え、武田さんは茨城で就農する新たな道を探しはじめます。
まず東京・有楽町にある「ふるさと回帰支援センター」で茨城県の担当者に相談すると、水戸で開かれる就農希望者向けのイベント「新・農業人フェア」を勧められ参加することに。そこで知ったのが、那珂市の新たな就農支援制度「MIRAI」でした。これは 地元の生産者と市が連携して希望者を受け入れ、就農に向けた実地研修を2年間行うというもの。研修生はその間、県の就農準備資金を生活資金として受け取ることができます。

 

「妻の実家にも近く、こうした市の支援制度が整っていたこと が決め手となって、2025年に那珂市へ移住することにしました。 現在、研修生として市内の綿引農園さんのもとでキュウリやトマ ト、米づくりなどを教わっています」

 

日本各地の農家の現場を見ていた武田さん。いざ、自分が農業 をする側になって研修が始まり半年が経ちました。実感としては いかがでしょう?

「この夏場はひたすら草刈りでした。除草剤に頼ってばかりいられませんからね。手がかかることはしょうがないですが、ここまで大変だとは想像していませんでしたね。でも、いろいろと綿 引さんに細かいノウハウを教えてもらい、一つひとつこなしていくのは面白い。農業はやりがいがあると思います」

 

さらに武田さんは前職での経験が買われ、MIRAIの研修の一環として那珂市の直売所「ふれあいファーム芳野」のマネージャー として運営を任されています。

「せっかく那珂市のいいものが集まるのに、利用者がそれほど多くないのが勿体無いなと。もっと地域の人々に足を運んでもらえるよう、取り組み始めているところです。それと今後、那珂市に道の駅ができる予定なので、こことある意味競合することになりますが、その際は各生産者からモノが集まる現状の機能を活かし拡充させ、水戸など近隣の小売店や飲食店にとれたての野菜を配送できる専門拠点にできればと。那珂市の農産品の新たな流れをつくれないか、いま構想を練っているところです」

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那珂市の農業のポテンシャルから
ふくらむ夢。

直売所を新たなシステムにして那珂市の農業の発展に繋げる。 その考えは市の農政課やMIRAIの先輩農家から大いに期待されているところですが、武田さんは他にも企んでいることがあるといいます。

「現状、那珂市の農家さんたちは、みなさんそれぞれ思い思いの作物をつくり自分たちで売っています。でも、個々の “捌ける範囲=つくれる量” だと限定的になってしまう。そこで、生産者をある程度組織化して主だった作物をグループでつくり、中規模産地として都心部などまとまった売り先を相手にしていけないか。そんなことを考えています」

 

それは研修で半年の間、那珂市のさまざまな生産の現場を見て 思い浮かんだこと。那珂市の豊富な種類の作物を生産できる農家 さんの個々のノウハウ、余りある圃場、水害・雪害・台風の被害 も少ない安定的で穏やかな気候など、この恵まれた環境があれば、 新たな産地改革で生産力をより高めることができるかもしれない。規模を拡大し農業を堅い産業とすることで、それぞれの農家さんのスタッフや新規就農者を呼び込むこともでき、農業の基盤はさらに安定するのでは。というのが武田さんの持論です。

 

「自分も農業人として歩みつつ、そうした那珂市の未来の農業 の土台をつくることに貢献できたらと思います。私はいつも頭の どこかに仕事があるタチなんですが、農業が好きになり農業に恵 まれた環境で暮らしはじめたいま、“ワーク・イズ・ライフ” が穏やかにできるこの生活が幸せですね。自分で面白くなんでも チャレンジする。那珂市はそれができる土壌なんだと思いました。こうして私みたいな “よそもん” を先輩方は快く受け入れてくれるので、農業に興味がある人はぜひ一度那珂市を訪ねてみてほしいですね。いっしょに農業を盛り上げていきましょうよ!」

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那珂市農業担い手確保・育成協議会「MIRAI」の研修生第1号
ふれあいファーム芳野 マネージャー
武田 翔太郎さん